スタートアップのためのPR会社
ベンチャー広報の三上です。
2020年10月2日、テレビ東京の報道キャスター・塩田真弓さんをお招きし、広報オンラインセミナーを開催しました。
タイトルは「報道番組は社会課題を解決するためにどう取り組んでいるか。報道番組の仕組と取材体制とは?」です。広報PRパーソンとして、テレビとの上手な付き合い方が理解できる有益な場でした。
そこで今回は、受講できなかった方のためにレクチャー内容をお伝えします。
塩田さんは、新人時代に「ワールド・ビジネス・サテライト」の新商品コーナー「トレンドたまご」を担当。その後、東京証券取引所記者クラブを担当。2018年には、「衝撃!未来テクノロジー2030世界はこう変わる」で放送高柳賞優秀賞を受賞しています。
現在は、「ゆうがたサテライト」(毎週月曜~金曜・午後4時54分~5時)で、月・火曜キャスターを担当。また記者として、国土交通省記者クラブも兼務されている方です。
テレビ東京の主な報道番組について
「WBS」は1988年〜、「モーニングサテライト」は98年~、「ガイアの夜明け」は2002年〜、「カンブリア宮殿」は2006年に放送を開始。その他、「特命!池上ベンチャーズ」など多くの番組を制作している。
池上彰さんは日本放送協会(NHK)を退職され、民放に出演されたのがテレビ東京の「ガイアの夜明け」の特番だった。そこから「選挙特番」「戦争を考えるスペシャル」「正月特番」に出演するなど関りが深い。
報道番組の仕組と取材体制
「WBS」は当初15名程で制作。現在では50名体制に。「モーニングサテライト」は15名体制に加え一部制作会社で制作。「カンブリア宮殿」「ガイアの夜明け」は、局員と常駐制作会社の方と外部制作会社半々の体制である。
記者の体制としては、国会記者クラブ、各省庁記者クラブ、警視庁記者クラブ、司法クラブ、宮内庁クラブ、東証記者クラブ、日銀クラブ等に配置。120名。
地上波に加え、ネット放送の最新情報
2013年3月から「テレビ東京ビジネスオンデマンド」のアプリを配信開始。月額500円。テレビ東京の経済ニュースが視聴可能になるサービス。今年9月で9万人強が登録。未公開、ノーカット版、カンブリア宮殿などの番組の2分版なども見られる。
また、BSテレ東も視聴可能。BSテレ東では「日経プラス10」「日経モーニング+FT」だけでなく、田村淳さんの経済番組、小谷真生子さんのSDGsに関する番組などコンテンツが豊富。また独自のスポンサードによるオリジナル番組も数多く制作している。
最近力を入れているのが、昨年4月に開始したYouTube公式・テレビ東京ニュースチャンネル「テレ東NEWS」。現在、70万人弱が登録している。他の民放では、テレビ朝日「ANNニュース」が147万人。フジテレビ「プライムニュース」は50万人。日本テレビ「日テレニュース」が2.7万人。TBSは24万人に視聴されいる。
注目しているのが、NewsPicksで会員数は470万人と圧倒的。その内、有料会員も14.7万人。有料会員の幅も、学生500円からプレミアム会員1500円で多角的に展開されている。“経済をもっと面白く”がキャッチフレーズで、経済情報を発信している身としては、大変勉強になっている。
テレ東NEWSの配信コンテンツは、ニュースをカテゴリーごとに分けて掲載。加えて、各支局が取材して記者がリポート、記者解説形式で載せている。直近の視聴200万回超えは国際ニュース、しかも国家ナショナリズムへの関心が高い傾向がみられる。
8月と9月半ばの視聴数の順位は、次の通り。
第1位:米中トランプ外交大暴露(視聴数230万回)
第2位:中国の「覇権」カギは“幸せの国”が握る…!?
第3位:「ファーウェイ」だけじゃない…アメリカ「GAFA」に迫る中国”次世代戦略” その実力を詳しく見ると…
韓国、香港、台湾も関心が高い。配信については、Googleの新サービス開始で「Googleニュースショーケース」に関心を持っている。
報道番組は社会課題を解決するためにどう取り組んでいるか
1枚のプレスリリースから「科学放送高柳賞・優秀賞」選出へ
(※これまでの取材で特に印象に残っている番組)
「衝撃!未来テクノロジー2030年 世界はこう変わる」で2017年に取材に関わった。きっかけとなったのが、東証クラブの担当時に、慶応義塾大学のシステムマネジメント研究所から届いたA4/1枚のプレスリリースである。
イーロン・マスク氏主催で、次世代交通システムにおけるハイパーループの技術を競う学生コンペがあり、150大学の応募から10大学が選ばれる最終コンペに慶応義塾大学の学生たちも臨めることになったという内容だった。
社会課題の解決に取り組む社会的にも非常に意義のある情報で、SpaceX社があるカルフォルニア州で取材し、番組を放送することができた。
自分のライフワークとして取り組んでいきたいことは
「社会課題の解決に挑む動きを伝える」「小さくてもリアルな声を伝える」ということ。新型コロナウィルスによって生活が一変してしまった人たちがいる中で、小さくてもリアルな声をできるだけ多く伝えたい。
そのきっかけとなった取組が「コペルニク~イノベーションをラストマイルに」である。ラストマイルにテクノロジーを届ける目的で、米国で立ち上げた。インドネシアを拠点に、収入が低い同国の人達にイノベーションを届ける団体だ。創設者は日本人の中村俊裕氏で、ここでは司会で参画している。
WBSなどで多くの企業取材をしているが、「社会の問題にフォーカスを絞って活躍した人達を取材してきただろうか」と振りかえった。限られた人達にフォーカスされていたと思わせた団体だった。もっと積極的に取組みたいと考えている。
NPO法人「キッズドア」の取組について
日本の7人に1人が相対的に貧困層となっている。貧困家庭の子供たちに学習の機会を提供する活動をする団体。
2020年9月24日、厚労省記者クラブで会見があり取材をした。コロナ禍で、子供たちの保護者も苦境に立っている。家でも仕事ができるWebデザインの学習を支援する取組について取材をし、「テレ東NEWS」で配信された。
Webサイト「キッズドア コロナに負けるな!」を立ち上げて、5月半ばに食材や文具を困っている家庭に届けた。9月入学に対する意見を5月19日に厚労省記者クラブで会見。6月には5000名の署名活動を行い、西村大臣に陳情、会見を実施した。
その他、コロナ禍で受験をあきらめない、貧困家庭の子供に対して500人に5万円を届ける活動を開始。キッズドアの発信力には、取材者として発信の学びにつながっている。上手く周りを巻き込んで、記者クラブでの発表の場を活用する例は、広報PRパーソンにも参考になると思う。
スタートアップ、ベンチャー企業の経験が浅い広報パーソンに
プレスリリースのAI検索システムを導入
広報活動をする企業が意識して欲しい点として、多くのリリースが届けられるが、取材されるのはごくわずかである。テレビ東京では、AI検索システムを試験導入。届いたプレスリリースの中から検索ワードに合うリリースをAIがピックアップしている。
AIにピックアップしてもらえるキーワードに加えて、どうして情報発信したいのか“背景”を伝えて欲しい。商品・サービスの内容だけでなく、社会的な“背景”も伝えて欲しい。「報道番組は、そもそも社会課題(SDGsの目標)を解決に導くツール」であるという姿勢で、広報活動を行ってもらえたら。
最後に
テレビ東京を知る上で、以下の2冊が今後の広報PR活動に参考になるのではないか。
◎「テレ東のつくり方」(大久保直和著/日本経済新聞出版)
◎「テレ東的、一点突破の発想術」(濱谷晃一著/ワニブックスPLUS新書)